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ピクルス (Pickles)

 

              ピクルス

                                                        天野啓子

 

 

ここは南カリフォルニアの郊外サンディーマスという小さい町。北にサンゲーブリエル山脈がそびえている。てっぺんはまだ白い。朝から友人が書いた四冊目のチョーサー評論の本の評論を書いていた。とってもおもしろい。お昼しなきゃと思って、午後二時半ごろきりあげてサブウェイに行った。今日も晴れている。お店のなかは顔なじみの若い店員四人と客は私ひとり。しめしめ、いつものピクルスの決着をつけよっ、と考えた。

 

「今日もミートボールにする?」

眼のくりっとした男の店員が言った。ワインカラーのエプロンをしてニコニコしている。会話はもちろん英語。

「ええいつもと同じ、6インチ、イタリアンアーブのパン、ソースをなるべくきってね」

彼は大さじででミートボールをすくって、ステンレスのいれ物のふちで押さえるようにしている。

「チーズはどれにする?」

「プロボオーン」

と私は言って腕を組んだ。

「トーストする?」

「イエス、プリーズ」

彼はてきぱきと、だけどゆったりとサンドイッチをオーブンに入れる。

「あとはいつもと同じ。ベジタブルは全部いれてね。オニオンは多めに。それから、ピクルスだけはいれないで」

ニコニコ顔の彼の目がもっと大きくなった。

「ハラピーニョは?」

といつもの調子で彼は言った。へたがついている薄い黄みどり色のハラピーニョを指している。

「ノー、ノーハラピーニョ、プリーズ」

またかと思いながら私は言った。

「ペパチーノは?」

黒人女性の店員がいたずらそうな笑みをうかべて言った。

「ノーノー、ノーピクルス、プリーズ」

「ペパチーノはピクルスじゃないわよ」

とその女性店員は言って、金属製のはさむもので山吹色のスライスをひっくり返している。

「よく見て、そのハラピーニョもペパチーノも、ピクルスを作るのに、みんなお塩とお水かお酢で漬けて作るのよ。そこにある新鮮なきゅうりとは違うでしょ?すっぱくて塩辛いでしょ?」

 ここですこしどうどうめぐりの議論がつづいた。

「オーケー、ピクルスのファミリーだね」

と男性の店員はいう。

「そうそう、ファミリー、それそれ」

と私は言った。

「ピクルスのファミリーか」

うしろのほうで誰かが言った。

「ピクルスきらいなの?」

男性の店員は言う。

「好きなんだけれど、最近、口内炎になりやすくなったもんでだめなの」

「そうか」

と言って残念そうな顔をする。

 他の店員もわたしたちのほうを見ている。

毎回、わたしが行くと同じピクルスの議論になるから、今日ぜひ決着をつけたいと思っていた。わたしの目もみんなの目も大きくなって、ファミリー、ファミリーとワーワー言いあって議論は解決に向けて盛り上がった。こんなことでまた議論したくない、でもしてよかった。たかがドリンクいれて5ドルほどの昼食のオーダーに、ながながとオーダーの説明するのはめんどうだもの。今日は、たまたま客は私ひとりだったから良かったけれど。みんな若くて陽気な人ばかり。もう二度とこういう議論をすることはない、やれやれと思って、サンドイッチをおいしく食べ、図書館に立ち寄って、ピンクのお花が咲く木をさがしながらてくてくと家へ帰った。

次の曇りの日曜日、図書館に行ったあとにまたサブウェイに寄ってターキーのサントイッチをオーダーした。サンディーマスにはレストランは数えるほどしかない。その中のタイレストラン、ピザパーラー、それにこのサブウェイの三店ほどしか行くところがない。以前は安くてとってもおいしいメキシカンのお店があってお魚のタコスが気に入っていたのだけれども、建設工事のため遠くに移ってしまった。

「ホールフィートの6インチ、マヨネーズはいりません。マスタードを少しつけて。オイルもお酢もかけないでください」

と私は言った。

「チーズはなににしますか」

ポーニーテールの女性の店員が言う。この店員も他の店員もいつも働いている人たちではない。ああ、今日は日曜日だ。

「きょうはスイスにするわ。オーブンにすこしいれてください」

「オーケー、そのほかは?」

「全部いれてください。オニオンは多めにお願いします。それでピクルスのファミリーは入れないでね」

彼女はうなずく。うなずいた!ファミリーということばを使えば解かるんだわ。よかった。これからはそう言おう。彼女はさっさとサンドイッチにレタス、トマト、グリーンペパー、きゅうりをいれて、オニオンの薄切りを手にとり、またとりいれて、小刻みになった黒のオリーブをポロポロとちりばめた。ほっとしたその時、

「ハラピーニョ?」

と私の目をみていった。

「ノオーォーーオ」

「じゃペパーチーノ」

と彼女は言ってぽこぽこっとぺパチーノのスライスをサントイッチに落とした。

「ノーノー、ノーペパチーノ、ノーハラピーニョ、ノーピクルス、プッリーイーズ」

彼女はあわてて黄色のスライスをステンレスのいれ物にもどした。

 ああ、ピクルスには勝てない。また振り出しに戻ってしまった。

サンドイッチを食べて、お店を出ると駐車場は暗く木々はみどり。しかたない、雨にぬられて帰るしかない。