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劇「サンマの開き」 Play“A Jack-Cut Open Mackerel”
Mother teaching flower arrangement/ A Jack-Cut Open Mackerel on right

The year is 1966.  Ocha teacher Sakiko’s household begins to rock as the Beatles’ visit closing in.  In the ocha room, she tends to ashes, water and fire.  Meantime, the typhoon eye of the Japan’s student movement erupts in a four-and-a-half tatami-mat room.  Steam escapes.  Sakiko continues to teach ocha.

(Top right is the Jack-Cut Open Mackerel painting.  She used to teach flower arrangement also.) 

 Other blog on the same play:

http://keiko-booksandtalksfromlosangeles.blogspot.com/

シーン一  お茶が人生 

                           

横浜 二月のある午後 縁側のある家

〈座敷でお茶の稽古  をしている。手だけがにゅっと出てきて、指は壁の絵を指す〉

ナレーション  この座敷には­「サンマの開き」と呼んでいるアジの開きだろうと思われるゴッホのような油絵が掛かっている。

この絵は近所に住んでいる画家が描いた物で、私が小さいとき果物の静物画でオレンジが薄い紙に包んであるところを描いてもらって、まだ洗足に住んでいたおじいさんに何かのお礼に贈った。その画家が偶然に私のクラスメートだった鈴木かずこちゃんの大きなお兄さんで、そのかずこちゃんの隣の家がその親戚にあたり、そこがもなか屋さんであんこを作っていて、季節のお菓子を作ってもらうのにちょうどいいのでたずねたら、そんな上等なところではないからとけんもほろろに断るので、研究すればそのもなか屋さんにも季節のお菓子くらい作れるのにぃと母は残念そうに言った。とにかくそういう関係で、もなか屋さんが他を紹介して下さり、季節のお菓子をその知り合いか遠い親戚かで作って頂いてそれを受け取りに鈴木さんちへ行ってサンマの絵に出くわしたという話。 

「でかした!」

と母はサンマを見てこぶしを手の平で打ったんじゃないかと思うくらい意気投合

して、その場で絵をゆずって頂いて、ここがちょうどいいわと言って、お茶室を入ったところの壁に掛けたというのが事のてん末。その絵は印象派のロマンと落語の庶民性とがかけあわされてできた魅力あふれる絵で、うちを訪れる人は、畳に手をついてお辞儀をして、足をお茶室に踏み入れると

しばし直立不動・・・それからアハハと笑う。

 

   お点前が終わる。

 

昭子  「先生、あのサンマ、いつ見てもおかしいですね」  

崎子  「ほんとはそんなものお茶室に置いちゃいけないのよ。

そろそろどけないとね」

昭子  「なくなるとさびしくなりますね」  

崎子  「もう十分楽しんだからいいでしょ。

〈大きな声で〉はい、おしまいにしましょう」

昭子  「ありがとうございました」  

 

昭子がおしまいのお辞儀をする。

それと同時に離れからビートルズの歌、ツイストアンドシャウトがジャーンと流れ出す。それを追って金太郎が早稲田の校歌を歌い始める。十五才の娘、あつ子は勉強机で、金メッキの枠にはまった鏡の中をのぞいている。となりの部屋では、牧三がパイプの煙をくゆらしている。近くにジャー、お盆の上に缶、急須、茶碗、赤のたばこの缶(プリンスアルバート)などがおいてある。崎子は音にびっくりした様子をしてから、玄関の方に行って弟子と別れの挨拶をする。

                                         

崎子  「昭子(しょうこ)さん、おめんじょとりましょうね」

昭子  「ありがとうございます。先生のおかげです」

崎子  「今年の会、大きくなるわぁ」

昭子  「お茶って本当にいいですよね」  

崎子  「お茶が人生よ。一生勉強ですもの。この良さあつ子には

ぜーんぜん、わかんないんだから」

昭子  「そのうちわかりますよ、先生」

崎子  「キャーキャー言ってるだけの乞食スタイルなんかに熱上げて、

なにがいいんだか」

昭子  「あつ子ちゃん、そのうちきっと先生のあと継ぎますよ」

崎子  「全くお稽古しないのよ。もう二度とやらせないって、この前もおどかしてやったんだけれど、平気の平座」

昭子  「そのうちやりますよ、やらなきゃもったいないですよ」

崎子  「そうよね、もったいないわよね。お道具も着物もあるのに」

昭子  「・・・・・あつ子ちゃんがうらやましいわ」

崎子  「・・・・・・・・・・・・・その道行きいいわねぇ」

昭子  「先生が青がいいっておっしゃったから、この前作ったんです」

崎子  「そう。とっても素敵、茶名もとれてお母さんも喜ぶでしょ」

昭子  「貯金ぜーんぶ下ろして桃色の反物買うつもりだったんですけれど・・・母が青の道行きじゃあわないって」

崎子  「あらー、青ってあんがい無難なのよ、

どんな着物でもはえるから不思議」

昭子 「母は着物のこともお茶のことも理解ないんです、もったいない、って言うばかりで」

崎子 「あらー」

昭子 「先生、お免状のことなんですけど。本当に申し訳ないんですが、今回は見送らせてください」〈泣く〉

崎子 「何かあったの」

昭子 「仕立屋の娘は仕立屋を継ぐのだから上等なお免状はいらないって、父も母も・・・お店のほううまく行ってないらしいんです」

崎子 「商売ってどこも大変なようね。

そりゃね、お茶やってればお大尽になれるってもんじゃないわよ。だけど一所懸命やってたら、仕立屋として一目おかれます。きちんとした言葉遣い、たちふるまい、人への心遣い、信用ってもんは自然とできていくもんよ。いい縁談だって・・・・」

昭子 「今日も、となりの院長さんとすれ違ったら、昭子さん、お茶やってるんですかーすごいなぁーって」

崎子 「ねっ、でしょ。恐ろしいもんよー、世間って見てないようで見ているんだから、ほんと。・・・・・・でも困ったわね、お免状・・・なにかいい方法ないかしら」

昭子 「・・・」

崎子  「だいじょうぶ、考えておくから、ねっ」

昭子 「すみません、・・・じゃ私これで失礼いたします」

崎子 「気をつけてね」